組織の多面性をデザインで解決する。医療提供支援サービスを行う企業のブランディング | ファストドクター
- クライアント
- ファストドクター株式会社
- 業種
- カテゴリー
- 期間
- 2024.4

Overview
取り組んだ内容
- デザイン戦略の策定
- ファストドクターらしさの可視化
- コーポレートサイトリニューアル
Approach
イントロダクション
ファストドクター株式会社は「生活者の不安と医療者の負担をなくす」をミッションに、約5,000名の医師が活動する、日本最大級のプライマリ・ケアプラットフォーム「ファストドクター」を運営する会社です。救急往診、オンライン診療、在宅医療支援、自治体支援などのサービスを通じて、生活者、医療・介護施設、自治体、公的研究機関、製薬や保険業界などのさまざまなステークホルダーに対して医療の問題解決を提案しています。
デザイン戦略の策定
ファストドクターは2016年に創業後、2019年からの世界的感染症の流行に対応し、急速な組織拡大を遂げてきました。しかしその過程で、創業精神の伝承や事業全体像について一貫した把握が難しくなるという課題が浮上しました。また、スタートアップとして複数のサービスが生み出される中で、各サービス間やコーポレートとのブランドイメージの一貫性を保つ必要性も課題として上げられていました。私たちはコーポレート部門の広報チームから声をかけていただき、これらを解決するためのデザイン戦略として以下の3つのテーマを提案しました。
- 事業とサービス体系の整理
- ファストドクターらしさの可視化とデザインシステムの構築
- 情報発信基盤としてのコーポレートサイトのリニューアル

事業とサービス体系の整理
私たちはまず、事業とサービスの全体像を把握するためのヒアリングを行いました。日本の医療現場が抱えている問題と、それに対するファストドクターのミッション/ビジョンの理解、そして生活者、医療・介護施設、自治体、公的研究機関、製薬や保険業界などのさまざまなステークホルダーに向けた事業の内容と取り組む社会課題など、「プライマリ・ケアプラットフォーム」と呼ばれる彼らの医療提供支援サービスの全体像を紐解いていきました。私たちはヒアリングで得られた情報をさまざまな図でまとめながら、整理の新しい可能性について議論を重ねました。

ファストドクターらしさの可視化
次に私たちは、広報チーム、テックチーム(Fast DOCTOR Technologies)、マーケチームのデザイナーからなる合同チームを結成し、これまで有志で行われていた「ファストドクターのデザインを考える会」を、「ブランドコミュニケーション」として再始動させました。Shedはプログラム設計とファシリテーション、実際のデザイン案の作成などを行いました。
まず既存のデザインアウトプットの棚卸しを行い、現状の把握と整理を行いました。その結果から、ブランドイメージの一貫性を確保するためには、それぞれのデザインの見直しを行うのではなく、まずはファストドクターらしさの言語化を行い、チームや組織の中で共通認識を持つことが必要と考えました。

私たちはブランドアーキタイプとイメージスケールを用いて、ブランドパーソナリティの言語化を試みました。ブランドアーキタイプはブランドが持つ本質的な要素を12の人格に例えて理解するためのフレームワークで、自分たちのイメージに近い人格を回答してもらいました。イメージスケールは対象に対して漠然と抱くイメージを具体的に落とし込むためのツールで、「楽しげな(Fun)/真面目な(Serious)」など、対となる形容詞の間で自分たちがどの位置にあるのかを回答してもらいました。
その結果、ファストドクターのブランドパーソナリティは「援助者」という要素のほかに、「支配者」「ヒーロー」「マジシャン」「反抗者」という、真逆とも思える要素が混在していることが分かりました。またイメージスケールでは「モダンな」「落ち着いた」「単調色な」といったキーワードが導き出されました。
私たちは企業の基本人格を、倫理的な思考を持ち、落ち着きがあるが芯の強さを感じさせる、40代前後の中性的な人物像として整理を行いました。そして対象によって異なる顔を見せる「多面性」も、ブランドの重要な特徴として定義しました。


ブランドの基本人格と得られたキーワードをもとに、私たちはファストドクターの視覚化に取りかかりました。写真、カラーパレット、書体、イラストレーションなど、メンバーそれぞれがファストドクターらしさを感じる表現やビジュアルを集めたムードボードを持ち寄り、全員で議論を行いました。
さまざまな可能性を検討した結果、シャープでモダンであるが、柔らかさや親しみやすさもある印象、白と青を基調とした清潔感のある配色、はっきりとメリハリあるレイアウト、といったトーン&マナーがファストドクターらしさであると決定しました。そしてファストドクターのデザイン原則として、ルールを作るものとしての「強さ」、援助者としての「分かりやすさ」、医療に携わるものとしての「高潔さ」という3つの項目を定義しました。
私たちはさまざまなビジュアルイメージのトライアルを行い、ファストドクターのイメージを具体的なデザインに落とし込んでいきました。





デザインシステム構築を目指して
ブランドコミュニケーションの検討の結果、これまでバラバラであったロゴ、カラー、タイポグラフィ、アイコンなどの定義を明確にすることができました。
特にアイコンは、デザイン原則にある「強さ」「分かりやすさ」「高潔さ」の象徴となるように設計を行いました。救急車や体温計、医者など、これまでよく使われてきたようなオールドスクールな医療のモチーフではなく、より現代に即したものにアップデートしつつも、アイコンとしての直感的な分かりやすさを失わないようにデザインしました。また、ライン形状の線の太さを可変にしたり、塗り形状のイラストに展開できるようにすることで、少ないアセット量で多くの媒体や表現をカバーできるようにしました。
私たちはこれらの定義からデザインシステムを構築することを目指しました。ファストドクターのデザインシステムとして必要な要素や運用の方針、完成までのロードマップについて議論を重ねた結果、まずは最初のステップとして、これらの定義をブランドアセットページとしてまとめることにしました。







コーポレートサイトリニューアル
最後に行ったのがコーポレートサイトのリニューアルでした。コーポレートサイトはファストドクターの多面性に注目し、“見る角度によって変化するデザイン”をコンセプトに掲げました。揺れ動く青のグラデーション、磨りガラスのような透過と反射の表現、境界が曖昧になっていく円の形状など、ブランドコミュニケーションの基本定義を具体的なWebデザインに展開しました。
情報設計では、最初に行ったプライマリ・ケアプラットフォームの整理を軸に、各セグメントごとのページを用意し、事業の目的や取り組む課題、実績、サービスラインアップなどを分かりやすくまとめました。また、CMSの入れ替えを行い、全てのページを広報の担当者が簡単に更新できる仕組みを構築することで、情報発信基盤としてコーポレートサイトが機能するようにしました。






おわりに
このプロジェクトを通じて、目まぐるしく変化するスタートアップ企業の中でひとつの答えを導き出すことの難しさを実感すると同時に、デザインによる整理がビジネスに与える影響の大きさを実感することができました。
また、広報やテック、マーケなどの多様なキャリアのデザイナーたちがチームを飛び越えてリアルで集まり、それぞれのクリエイティビティを発揮しながら、自分たちらしさをかたちにしていく場に立ち会えたことは、とても刺激的で学びのある経験でした。そして、それぞれの頭の中にある抽象的なイメージを、共通認識として言語に変換して整理できたことも、とても興味深い体験となりました。
未だ多くの課題を抱える日本の医療に対して、「援助者」という博愛心の中に、「支配者」「ヒーロー」といった強い信念を持って立ち向かうファストドクターを、これからもデザインで支えていきたいと思います。
Credits
デザインコンサルティング、アートディレクション: 橘友希
PM:庄境七海
デザイン: 樽川響
マークアップ: 庄境七海、伊藤裕太、鵜飼 康弘