どこにもない体験をつくる。大手メーカーの未来価値創出事業
RICOH PRISM
- Client
- 株式会社リコー
- Period
- 2023.5 - 2019.7
Overview
取り組んだ内容
- 未来価値創出事業としてのサービスプロダクトのアートディレクション
- 特殊空間で実行するアプリケーションのプロトタイピング
- サービススキームを補強するWebサービスの立ち上げ
- データ活用戦略のサポート
Approach
イントロダクション
RICOH PRISM(リコープリズム)はチームの創造的な「気持ち」を高める、まったく新しい空間です。この空間では、光がチームの感情や考えを映し出し、その時々にぴったりの音がムードを盛り上げます。香りや触感まで駆使した緻密な空間演出が脳細胞を刺激し、一人一人の想像力を高め、集団としての創造力を拡張してくれます。RICOH PRISMは目的によって姿を変える、まるで生きているような未来の会議空間です。
チームジョイン
2019年、Fw:D(フォワード)と名付けられたチームが、未来(2030年)のニーズを起点にリコーの提供価値をバックキャストで考えるプロジェクトを進めていました。未来の「働く」は生産性の追求から人間性の追求する手段になると考え、「働く」こと自体が「幸せ」に繋がっていくために何ができるかを検討していました。
その取り組みの中で生まれたプロジェクトのひとつが「RICOH PRISM」です。
私たちShedは、プロジェクト初期から参画していたart and program社に声をかけていただき、体験設計とデジタルのデザインの担当としてチームにジョインしました。
プロジェクトはリコー社内外の優秀なメンバーが集まり、すでにさまざまな検証やプロトタイピングが行われていました。私たちはまずチーム全体を観察し、ひとつの問題を見つけました。アイデアが発散していて、体験としてのゴールイメージを集約させていくことができていない状況でした。私たちは「考察」というかたちでチームに「問い」を投げかけながら、プロジェクトのコアを整理していきました。
目指すべきゴールや抽象的なイメージを、具体的な言葉やビジュアルに落とし込むことで、チームの考えや方向性を収束させていくことができました。
プロトタイピング@新横浜
コンセプトモデルは「Digital Alcohol」と名付けられていました。自分らしい創造的な仕事をするためには陶酔や心酔が必要である、という仮説のもと、デジタルなアルコール効果で人を酔わせて魅了し、最大化されたチームワークを生み出す空間をつくることがコンセプトでした。
これまでに無いひとつの大きな体験をつくっていくために、機能ごとに7つのチームに別れ、それぞれの検討とプロトタイピングを進めていきました。私たちは、チームごとのアイデンティティーの獲得と、ひとつの共通の目的に向かって進んでいく意識の醸成のため、統一されたデザインシステムを用いてロゴをデザインしました。そしてプロジェクトの活動記録としての小冊子を制作したり、チームの結束を生むステッカーなどのグッズを制作することで、プロダクト実現へのリアリティを高めていきました。
2019年末、リコーの役員陣を中心とした社内発表会を無事に終え、Digital Alcoholは次の価値検証に向け、本格的な開発のスタートを切りました。
RICOH PRISM誕生
正式版のリリースを目指し、本格的に開発がスタートしたのが2020年初旬、奇しくも日本でのコロナウイルス感染症の流行が始まった時期でした。
私たちは実際の空間での体験をリモートで設計・デザインする難しさと、リリース後のニーズへの不安を感じていました。しかし同時に、人と人が実際に会うことの貴重さ、そして創造的な活動においてのチームのリアルなコミュニケーションの重要さを、身をもって再認識することができました。
リコーのデザインセンターのデザインチームと連携しながら、私たちは世界観の作り込みを行っていきました。これまでの「デジタルのアルコール効果」から「輝く個が集まってチームは輝く」という想いを込めた「光(プリズム)」を新たなコンセプトとして、正式名称も「RICOH PRISM(リコープリズム)」に決定しました。
RICOH PRISMのアートディレクションを行うと同時に、私たちは空間内で体験する個々のアプリケーションのデザインも行っていきました。床を含めた5面に映像が投影されるという特殊な空間のデザインという前例のない体験でしたが、これまでのデジタル領域での体験設計の経験を生かし、確度の高いプロトタイピングをつくることで、ゴールまでのステップを効率よく進められるようにチームをサポートしました。
そして2020年9月、RICOH PRISMは3Lというリコーゆかりの地である大田区中馬込の大森会館を全面的にリファインして生まれた施設の1Fに誕生しました。
RICOH PRISMはまだ商品化される前のPoCモデルであること、そして今後のプロジェクトの発展を考慮し、アートディレクションとしてあえてデザインを全て作り込まないように考えました。個々のアウトプットを最適化していくのではなく、全体の大きな方向性とルールを定義していくことで、今後のプロジェクトの進行とともにブランドデザインが進化していくようにしました。
実証実験と事業化に向けて
2022年、RICOH PRISMは価値を共に検証するパートナーの募集を開始しました。パートナーとの実証実験をおこなうための複数拠点展開に向けて、私たちは再びいくつかの整理を行っていきました。
RICOH PRISMのWebサイトはターゲットや目的に合わせての情報設計を見直し、全面的なリニューアルを行いました。これまで作ってきたアプリケーションをチームワークにおける3つの領域に整理したContents Mapや、新規事業創発としてのRICOH PRISMの活用イメージをまとめたExperience Mapなどをデザインしました。
また、私たちはユーザーが自分の活動データを閲覧・分析することができるWebサービスの立ち上げを行いました。RICOH PRISMは人の振る舞いに着目して、空間内で行われる実際の活動データに加え、会話の内容や生体情報、個人特性などデータを組み合わせることで、人と人とのコミュニケーションの分析を行っています。私たちはそれらのデータ活用としての戦略もサポートを行いました。各拠点に設置されたセンサーデバイスのデータとアルゴリズムから振る舞いデータを定義し、継続的かつ安定的にデータを取得し解析を行うことで、創造性に影響を与える因子の特定と、その成果をユーザーやチームにフィードバックしていくコンセプトを設計しました。
おわりに
私たちはこのリコーのプロジェクトを通して多くのアウトプットを行うのと同時に、多くのことを学びました。未来のはたらくとは何かを想像したり、チームの創造性について考えたり、個人のウェルビーイングの重要性など、人と組織のさまざまな知見を得ることができました。そしてリコー社内外の素晴らしいクリエイターと共にプロジェクトを行うことができたのはとても貴重な経験でした。
これからも未来に価値を生むリコーの新たなプロジェクトで支援を行っていきたいと思います。
Credits
デザインコンサルティング、アートディレクション: 橘友希
PM: 宇佐見優
デザイン: 橘友希、矢代彩、濵田佳仁、鶴田琴乃
マークアップ: 庄境七海、伊藤祐太、宇佐見優、株式会社FMC、株式会社Telepathy
CG、アニメーション:なかばやし たける (LiPOGRAM)、木村未佑 (LiPOGRAM)
印刷:三永印刷株式会社
箔押し加工:美箔ワタナベ
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