1を積み上げて世界を変える。クライアントと伴走しながら進めるリブランディング | Fabeee
- クライアント
- Fabeee株式会社
- 期間
- 2023.7~2024.6

Overview
取り組んだ内容
- デザイン戦略の策定
- 企業理念の見直しと体系の整理
- コーポレートリブランディング
- サービスブランドの構築
- 採用サイトリニューアル
- 理念浸透の支援
Approach
イントロダクション
2023年5月に14期を迎えたFabeeeは、これまでの収益基盤であったSESや自社プロダクトの開発から、伴走型DX支援のサービスへと大きく事業転換を測ろうとしていました。しかし社内外で情報発信が追いついておらず、コーポレートサイトや会社紹介資料などでは新旧の内容が混在しているような状況でした。採用でも、転職エージェントや求職者に対して会社の魅力や今後の展望が正確に伝えられておらず、求める人材が集まらないという課題がありました。そしてCEOの佐々木氏からも、会社のイメージを今の自分たちらしいものにアップデートしたい、もっとエモーショナルな部分を出していきたい、という依頼を受けました。
私たちはそれらを解決するため、Fabeeeらしさとは何かをもう一度問い直し、それらを具体化するリブランディングを行うことを提案しました。そして約1年間、私たちはデザインコンサルティングとして伴走しながら、さまざまなデザイン制作を行っていきました。


デザイン戦略の策定
私たちはまずリブランディングの目的を整理しました。インナーブランディングでは経営陣や社員に対して、アウターブランディングでは生活者、顧客、投資家、求職者や転職エージェントに対して、それぞれのステークホルダーと最適なコミュニケーションを設計することを目指し、プロジェクトの評価指標を定めました。

リブランディングは以下のアプローチで行いました。まず組織のコアを解明し、それらを企業理念へと落とし込み、その後にブランドアイデンティティやブランドパーソナリティなどの言語化を行い、それらをもとにしてトーン&マナーやビジュアル・アイデンティティなどの視覚化を行う、という順序で進めていきました。

私たちは最終的に以下のロードマップを描きました。毎週定例を行い、優先度やタイミングを話し合いながら、1つずつプロジェクトを進めていきました。

Vision・理念体系の整理
リブランディングの最初のピースは企業理念の見直しでした。Fabeeeの企業理念は「オンラインとオフラインの境界線をなくす」というVisionと、「Take The First Action」「Share Everything」「Never Stop Updating」という3つのValueで構成されていました。この理念は、エンジニアを中心とした自社プロダクト開発やSESが主力事業であった頃に策定されたものでしたが、現在でも会社の目指すべき未来の姿としての役割は果たしていました。しかし、内容の抽象度が高く、社員の中でも解釈や抱いているイメージに差があったり、表現としてこれが適切であるのかといった疑問の声も聞かれていました。また、理念以外にも顧客や採用者に向けた異なる切り口のメッセージが複数存在しており、会社が本当に何を大切にしているのかわからないような状態でした。
そこで私たちは企業理念の見直しと体系整理のプログラムを設計し、役員と部長陣とともに検討を行っていきました。


企業理念の見直しのプログラム
プログラムはボードメンバーセッションからスタートしました。CEOの佐々木氏とCTOの杉森氏の両氏と、会社設立のストーリーからこれまでの企業理念の変遷、現在の企業理念に対する課題感、今後の事業展開など、さまざまな対話を行いました。私たちはそれらをFabeeeのナラティブとしてひとつの図に落とし込んでいきました。その結果、Fabeeeという組織のコア(組織を成り立たせている核)として「楽しさ・ワクワク」というキーワードが浮かび上がってきました。
次のコアメンバーセッションでは、社員代表として部長陣と対話を行いました。セッション冒頭に、ボードメンバーセッションで明らかになった「楽しさ・ワクワク」という組織のコアを伝えたところ、部長陣からは「共感できない」という声が上がりました。Fabeeeの存在理由や、自分たちがFabeeeで働いている目的はほかにあるはずだ、という反応でした。私たちはコアについての議論を保留にして、Fabeeeの「らしさ」と「強み」の深掘りを進めていきました。自身の入社の動機やこれまでの仕事の成功体験、顧客から評価されたことなど、具体的なエピソードを全員と共有しながら、会社としての強みや価値観をまとめていきました。
最後の合同セッションでは、役員陣と部長陣が一堂に会し、改めて「Fabeeeという会社は何のために存在するのか」という問いについて考えました。ボーダレスな社会の実現なのか、産業のアップデートなのか、デジタル格差をなくしていくのか──。案の定、議論は膠着状態に陥りました。しかし何度も対話を重ねていく中で、「自分たちは社会や産業を変えていくことを目的とするよりも、自分たちや顧客が世に放ったものが、受け手である消費者やユーザーなどの人々の心拍数を1つでも上げるようなことをしたいし、働きがいがある」というひとつの想いが見えてきました。心拍数が上がるような体験をつくる。それこそが自分たちの存在理由ではないだろうか──。部長陣が最初に違和感を覚えた「楽しさ・ワクワク」こそが、自分たちの本質だったのです。


新しいMissionとValue
そして「世界の心拍数を1上げる」という新しいMissionが生まれました。Fabeeeは「便利な社会の実現」や「イノベーションを起こす」といった、遠く壮大な目標をVisionとして掲げるのではなく、まずは目の前の人と向き合い、確実に1つずつ積み上げていくというMissionを掲げることに決めました。
さらにMissionを実現するために大切にしたい価値観として、「1 Passion、1 Surprise、1 Step」という新しいValueを定めました。これは人間が創造性を発揮するための「知覚」「思考」「実行」という3つのプロセスにそれぞれ連動しています。この3つの“1”をかけ合わせることで、私たち自身や、目の前の人たちの心拍数を1上げることができる、という考えが反映されています。
私たちはこの新しいMissionとValueの内容を齟齬なく伝えていくために、これまでのFabeeeの組織や事業の変遷、企業理念を刷新する理由、そして新しい理念に込めた想いなどを、印象的なビジュアルとともに1つの冊子にまとめました。そして社外へと発信を行うために、特設サイトを制作しました。


ブランドの言語化
企業理念の後に、私たちはブランドの言語化に取り組みました。まず、コーポレートアイデンティティとして、社名の由来や象徴されるものなどを改めて整理しました。
次にブランドパーソナリティを導き出すためのワークを実施しました。ブランドアーキタイプはブランドが持つ本質的な要素を12の人格に例えて理解するためのフレームワークで、自分たちのイメージに近い人格を回答してもらいました。イメージスケールは対象に対して漠然と抱くイメージを具体的に落とし込むためのツールで、「楽しげな(Fun)/真面目な(Serious)」など、対となる形容詞の間で自分たちがどの位置にあるのかを回答してもらいました。
その結果、Fabeeeというブランドが持つ人格は「マジシャン(Magician)」という要素が強く、続いて「探求者(Explorer)」「反抗者(Outlow)」などの要素を持っていることが分かりました。ブランドイメージとしては「カジュアルな(Casual)」「シンプルな(Simple)」「楽しげな(Fun)」「人間的な(Humanistic)」などのキーワードが導き出されました。


ブランドの視覚化
私たちはブランドの言語化と新しい企業理念をヒントに、ビジュアルアイデンティティの検討を行いました。コーポレートロゴは、これまでの印象を引き継ぎつつ、新しいFabeeeらしさを加えるように調整したリファインと、これまでとは異なるアイデアで新たな印象へと生まれ変わらせるリニューアルの大きく2つの方向性で提案を行い、さまざまな可能性を検証しました。

新しいコーポレートアイデンティティ「魔法のブロック」
検討の結果、Fabeeeのコーポレートアイデンティティは「魔法のブロック」に決まりました。これまでの「ものづくり」のアイデンティティと、マジシャンのように想像を超えるWOWを生み出す力、顧客とともに着実に1を積み上げていく姿勢、そしてFabeeeのコアである「楽しさ・ワクワク」の生まれる瞬間といったイメージを、「ブロック遊び」という新しいメタファーで表現しました。
これまでのアベンジャーズを彷彿とさせる堅牢な印象のロゴから、DXパートナーとしての親しみやすさや賢明さを感じさせるものへと進化させました。
私たちは「魔法のブロック」をオリジナルのフォントに拡張し、それらをキービジュアルとして活用しました。また、全体のブランドのトーン&マナーに合わせて、名刺、スライドフォーマット、Zoom背景、ネックストラップなどのコミュニケーションツール、コーポレートサイト、採用サイトなどを一気通貫で制作していきました。同時に、メンバーのポートレートやビジュアル、社内風景の撮影を実施し、ビジュアルの刷新を図りました。














サービスブランドの構築
コーポレートと同時に私たちはFabeeeの主力事業であるDX推進事業の「バンソウDX」のブランディングも行いました。バンソウDXのコンセプトは「変革」。DXにおいて真に重要なのはD(デジタル)ではなくX(トランスフォーメーション)であり、クライアントが自らの意志で変わることを支援する、というのがバンソウDXの目指す姿でした。
最初に私たちはコーポレートと一貫性をもたせるかたちでサービスブランドのロゴを提案しました。しかしその方向性は彼らのイメージとは異なっていました。私たちは改めて事業担当者にヒアリングを行い、コーポレートと同じようにバンソウDXの「らしさ」を紐解きました。そして事業の本質である変革や、それに対する情熱と本気度、現状への危機感が伝わるようなものを改めて提案し、新たなX形状のロゴが決定しました。
次に私たちはサービスブランドのコンセプトを伝えるためのコピーを開発しました。DX推進という領域での差別化を図るため、課題意識を持っているクライアントに対して、「変わろう」と訴えかけるようなコピーにするために、最終的に変革を山登りに例え、変革の厳しさを語りつつも鼓舞するような「本気の『変わる』を『変革』へ」という文章に落とし込みました。
そしてそれらをWebサイトに落とし込んでいきました。さらに、バンソウDXの支援実績を具体的に伝えるため、事例記事の制作も行いました。ライターをアサインしてクライアントへのインタビューを実施し、変革の過程で得られた気づきや成果を丁寧に言語化していきました。









採用サイトリニューアル
リブランディングの最後のピースは採用サイトでした。コーポレートサイトは顧客向けにビジネスの信頼性を重視した設計でしたが、採用サイトではより人間味のある、Fabeeeらしさを伝えることを目指しました。社員の日常を切り取った写真を多く使用し、多くの社員に協力してもらいながら、ディレクションを最小限に留めて、リラックスした表情や職場の楽しげな雰囲気を撮影しました。デザイン面でも、求職者が「自分もここで働きたい」と感じられるように、コーポレートサイトよりも明るく、親しみやすいトーンでまとめました。基調カラーにはオレンジを取り入れ、温かみと活気を強調しています。




理念浸透の支援
新しいブランドデザインをリリースしてから半年後の2024年5月、Fabeeeで2024年上期のキックオフミーティングが開かれました。
そこでは役員陣と部長陣から、今後の事業方針とともに、改めて新しい企業理念とブランドが全員に共有されました。
私たちShedもゲストとして参加し、メンバーと一緒にワークショップを行いました。そこでは、CEOの佐々木氏を中心に「心拍数」というワードがすでに浸透をはじめ、メンバーは新しいミッションと事業の目標に向かって進み始めている姿がありました。
キックオフミーティングの後に、私たちはコンサルティングの支援の最後として、理念浸透の「理解、共感、行動、習慣」という各ステップに合わせたアンケート項目の設計や、具体的なワークショップのアイデアなどの長期的な理念浸透施策を提案し、1年にわたる伴走を終えました。

おわりに
今回のプロジェクトでは事前に評価指標を設定していたことで、ブランディングの課題として上げられる効果の側面でも、単なる雰囲気にとどまらず、具体的な成果を残すことができたと感じています。実際に社内のキックオフミーティングの後に行われた全社アンケートでは、メンバーの理念への理解度が5点中4.57点、共感度が5点中4.34点と、非常に高いスコアが得られました。
また企業のブランディングとして、経営者の直感やエネルギーの源泉を掘り下げていくことの重要性や、企業理念を軸にしたブランド設計の合理性を改めて感じました。そして担当者からは、セッションや写真撮影など、メンバーを巻き込みながら進めていったことで、社内のコミュニケーションの活性化にも繋がったとの声もいただきました。現代のデザインプロセスにおける共創の重要性も改めて感じました。
今回のプロジェクトでFabeeeとともに歩んでいく中で、私たちも確かに心拍数が1上がる楽しさとワクワクを感じることができました。今後も彼らの事業とミッションの達成をサポートしていきたいと思います。